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バイエル薬品 大動物シンポジウム 2012
大動物シンポジウム 2012

気管支肺胞洗浄法が示す肺炎起因菌の関与と抗菌薬療法

鹿児島大学 共同獣医学部 獣医学科 臨床獣医学講座 産業動物内科学分野 教授 帆保 誠二 先生

治療方針の組み立てに加え、治癒にも役立つ気管支肺胞洗浄法


気管支肺胞洗浄法(BAL)(馬)
肺炎発症牛の内視鏡所見

 2012年4月に新設された鹿児島大学共同獣医学部において、現在、産業動物内科学の教員を務めているが、以前は日本中央競馬会に籍を置いていた。その当時から研究を重ねてきた気管支肺胞洗浄法(BAL)について、馬の話を中心に紹介し、牛に関する所見も述べたい。

 肺炎は、家畜やヒトの細菌感染症のなかでも特に重要な病気である。細菌感染症における死因としては、馬でもヒトでも1位となっている。しかし、非常に病態把握が難しい病気でもある。かつて鼻腔スワブで肺炎の起因菌を突き止めようとしたが上手くいかず、より肺に近い気管から液を採取してみた。しかし、肺炎の起因菌に関する十分な情報は得られなかった。そこでBALにより得られる気管支肺胞洗浄液を調査することとした。
 3メートルもある内視鏡(気管支鏡)を鼻から挿入し、鉗子孔(チャンネル)から滅菌生理食塩水を注入後、即座に回収することにより気管支及び肺胞を洗浄する、というのがBALである。その際、採取した液を検索することで、同領域に存在する細菌やその薬剤感受性が判り、治療方針の組み立てが可能となる。また、同領域から細菌や炎症産物を取り除くことで、抗菌薬を効かせやすくする。さらには白血球が出す組織を破壊する物質、エラスターゼなども減らすことができるので、肺炎の治癒にも役立つ。

白血球、炎症マーカー、肺胞損傷マーカーによる病態把握を


感染時の末梢血中WBCの変動(イメージ)
実験的細菌性肺炎誘発試験での各種指標の経時的変動(馬)

 競走馬の場合、肺炎の病態把握は、白血球数(分画を含む)、炎症マーカー、肺胞損傷マーカーで行っている。しかし白血球数は、末梢血中で測定するため注意が必要である。白血球数が顕著に増加していれば感染だと判断できるが、感染直後は減少していることもある。これは、感染後、直ぐに白血球が骨髄から供給されるわけではなく、血中の白血球が感染部位へと移動するため、結果的に末梢血中における数値が下がってしまうことに起因する。供給が追いついてくると、末梢血中でも増加してくるが、重度の肺炎の時は、供給が間に合わず、正常値よりも下回り続ける。また、感染が抑えられても骨髄からの白血球の供給が直ぐに止まるわけではないので、治癒後、末梢血中では逆に増加することもある。このような可能性も認識して末梢血中の白血球数を測定することが重要である。

 肺炎は、白血球数測定だけでは確実に診断できないので、馬の臨床では血清アミロイドA(SAA)という炎症マーカーを使用している。値の大きさが炎症の強さに比例するため使い勝手がよく、フィールドでも10分ほどで測定できる。しかし非特異的なマーカーなので、フレグモーネや皮膚炎などでも増加する。そこで肺炎だと特定するため、肺サーファクタント蛋白質(SP)に着目した。肺炎などで肺胞にダメージが加わると、本来は肺胞中には存在しないアルブミンが気管支肺胞領域ヘ漏出してきたり、肺胞中にしか存在しないSP-AやSP-Dが血中に出てきたりする。
 SAAは炎症の度合いに比例してダイナミックに変動するが、肝臓で作られるため反応が少し遅れてくる。SP-AやSP-Dは基本的には肺胞にしか存在せず、肺炎による肺胞基底膜の損傷の程度に応じて血中へ漏出するので、その血中での動態は鋭敏である。これを肺胞損傷マーカーとして上手く活用すれば、肺炎の病態がより確実に把握できるだろうと研究を進めている。現在、牛のフィールドでも測定できる測定系の検討を重ねている。

馬の肺炎治療では抗菌スペクトルの狭い抗菌薬から使用し、必要に応じて追加している


各種抗菌薬に対する感受性菌の割合(%)

 肺炎発症馬の気管支肺胞洗浄液の解析の結果、馬の肺炎を起こすのはほぼ100%が連鎖球菌(Streptococcus zooepidemicus)であることが判った。連鎖球菌に100%効果があり耐性化しにくい抗菌薬は、セファロチン(CET)などのセフェム系である。これを第一選択薬にすれば、まず8~9割は治る。二次感染菌となるのが、馬の場合、偏性嫌気性菌のBacteroides spp.や大腸菌、緑膿菌である。その他は日和見感染菌だと判っているので、競走馬の場合、抗菌薬の使い方は、ほぼ図表の流れに準じている。
 まず、S. zooepidemicusをターゲットにセフェム系を使うが、治らない場合は、多くがBacteroides spp.である。同菌はセフェム系に対する感受性が0%なので、下地が出来たところには感染しやすい。これにはミノサイクリン(MINO)が効くため、第二選択として使う。これで叩けない時は、大腸菌に感染している可能性が高いので ホスミシン(FOM)を使い、その次に、緑膿菌に効くアミカシン(AMK)を使う、といった流れとなる。
 それなら最初から抗菌スペクトルの広い抗菌薬を一気に使えばいいのではないという考えもあるかもしれないが、感染初期の症例の多くはセフェム系で治るので、敢えて抗菌スペクトルの広い抗菌薬を使う必要はない。効果が無ければ足していくというのが、耐性菌の出現を最小にする適切な抗菌薬の使い方であると思う。
 連鎖球菌は病原性が強いので、CETの投与を止めてしまうと再び感染する恐れがあるため、抗菌薬は切り替えずに追加する。抗菌薬を止める時は、足したものから引いていくのを原則にしている。将来的には、牛に関してもこのような簡略化した治療方針を立てられるよう、現在、症例を集めている。

治癒率だけでなく競走復帰率が飛躍的に高まったBALの有用性


気管支肺胞洗浄法(BAL)の有用性(馬)
細菌性肺炎は胸膜肺炎へと移行し易い(馬)
胸腔ドレナージ(馬)

 競走馬の肺炎の治癒率は、BALを実施せず抗菌薬のみ投与した場合だと、92.9%。約7.1%の馬が死んでいたのが、BALを実施すれば5.4%ほど治療率が向上し、死亡率も1.7%になった。さらに特筆すべきは、競走復帰率。肺炎が治っても、66%ぐらいしか競走復帰できなかったのが、 BALの実施により約90%が競走復帰できるようになった。
 治せなかった1.7%は、馬の場合、ほとんどが重度の胸膜肺炎である。細菌性肺炎になると、多くの場合胸膜肺炎を併発しており、ひどくなると膿胸になる。1.7%の死亡を出さないために推奨しているのが、胸腔のエコー検査と胸腔ドレナージである。非常に簡単な方法である上、以前なら死亡していたであろう馬が1〜2週間の治療で治っており、近いうちに肺炎治癒率は99%以上になると思われる。胸腔ドレナージはBALよりも簡単で、何よりわずかな道具で済む。

 細菌性肺炎の治療に有効なBAL、さらには胸腔エコー検査、胸腔ドレナージを、ぜひ牛の臨床の場面にも取り入れていただきたい。そのための情報提供を、私も積極的に行っていきたいと考えている。

ポイント

  • 肺から細菌や炎症産物を取り除き、抗菌薬の効果を高める気管支肺胞洗浄法(BAL)は、細菌性肺炎の原因菌の特定にとどまらず治療にも非常に有効である。
  • 馬の細菌性肺炎を引き起こすのは連鎖球菌であり、セフェム系抗菌薬を第一選択薬にすれば、その段階で8~9割は治る。
  • 連鎖球菌は病原性が強いため、肺炎が良化しない場合にもセフェム系抗菌薬を止めずに他の抗菌薬を足していくことが重要である。
  • BALに基づいた抗菌薬投与を行うことで、競走馬の治療率だけでなく競走復帰率が飛躍的に高まった。
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